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還暦いよいよ下り坂
かぎりある命のかぎり蝉時雨
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のそり来て猫が寝そべる曼珠沙華

JR指宿枕崎線の線路の土手に、彼岸花が群れ咲く処がある。私はまだ一度もそれを見たことがないのだが、天上の藍を背景に点々と赤く燃え盛る風景はまさに彼岸のそれだろう。
「土曜、出てくれないか」という打診があった。しかし先週も土曜出勤でみな疲れ切っている。誰も「うん」と言わぬままうやむやになった。どうやらこの彼岸花が頭を出す前に雑草を刈り取ってしまいたいという意向のようなのだが……。
別名曼珠沙華(まんじゅしゃげ)、俳句では「死人花」とも。彼岸近くなると、人家近くの田圃の畦や道端ににょきにょきと競い立ち華麗な6花弁を広げる。赤の外に黄色、白色など、世界中には1000種もの仲間がいるらしい。有毒植物である。姿かたちがあでやかで優雅な割りには人に好かれていない。「あの世の花」という意識が先に立つようだ。
初めて俳人と言える先生に添削してもらった掲句、「切り口はいいのだが……。ま、初めてにしては…ん、こんなもんですかな」と、褒められたのか貶されたのかよくわからぬ評価をもらった。
私はもともと無季非定型派、山頭火などを好む。しかし世の中すべてホトトギスになってしまい、評価は定まった。転向してときおり有季定型の腰折れ一句を捻るようになって既に15年。師も持たず勝手気ままな手慰みだが、進歩はあるのだろうか?
今ならこうだ。
天上の蒼点々と曼珠沙華
俳句は自分を客観し俯瞰することにもなり、自分を見つめ直す機会ともなるので続けている。難しく言えば、即自から対自へときたま意識を深化させるということかな。わっはは!

限りある命のかぎり蝉時雨

今年の夏は格別に暑いらしい。あちらこちらを観測史上初めてという摂氏40度越の熱波が襲った。人間の体温を越える40度という温度は全身ぬるい温泉に浸かっているようなもので、じっとしていても茹蛸になってしまう。「冷房は体によくない」などと言ってはおられない。
幸いに鹿児島は新記録というほどの暑さではないが、それでも35度以上の猛暑日が10日以上も続いた。なんとかお盆をやり過ごし、一日千秋の思いで日差しが和らぐのを待っているが、まだまだ先のようである。公園や庁舎は木陰もあり何とか凌げるが、道路はアスファルトの熱気で朦朧となる。交通量の多いところで意識を失ったら命がないから「早く来い来いお正月」と歌って耐えている。体感温度は40度を超えているだろう。
さりながら朝の来ない夜はない。秋の来ない夏もない。やがて秋風吹き、枯葉舞い木枯らしに身震いして夏を待望するのだから人間とは勝手なものだ。せめて去り行く夏を惜しむ風雅をと思うのだが、小人如何とも為しがたし。
閑話休題。最近昼休みにラヂオを聞いている。NHKの「昼の憩」という番組である。これは大変な長寿番組で、私が物心ついた頃からあるいはそれ以前から続いている。各地からの便りをアナウンサーが淡々と読み上げるただそれだけのものだが、何となく温かくしんみりとした気持ちになる。昔は「○○農林通信員○○さんのお便りでした」と締めくくっていたが、今は○○の誰々さんとだけ。あの頃日本の8割は農村だった。今純然たる農村があるのだろうか。
バックグラウンドがまたいい。あれは確か古関裕二(名前の漢字は間違いかも)田舎人間の私はただただ懐かしく聴く。その季節季節の昭和30年代の故里の風景が脳裏に甦る。それは裏庭の赤く熟れた柿の実のある風景であったり、真夏の人気のない海のたゆとう波であったりする。

種播くに時にあらずと秋の風

豊橋から持ち帰った荷物に中に、一月採取したコスモスの種子が入っていた。今頃になって気付いても世間はすでに秋の風、花は咲くまいとは思うのだが、とにかく播種することにした。
今日は盆休み二日目。早く起きて塵芥の整理をし、ついでに先日挿したポーチュラカの手入れをして、街路樹の下の皐の植え込みの間を鍬で掘り起こした。肥料と一緒にぱらぱらと振り掛けたが、おそらく花咲くには至るまい。豊橋で種を播いたのは6月、咲いたのは12月だった。更に二ヶ月も遅れたのだからどうしようもない。物事には時期というものがある。
まぁ、気休めのようなものだが、せっかくの発心を無にするには忍びないから、やっと根付いたポーチュラカの新芽をところどころに挿しておいた。この西洋種、なかなかに根強い。コスモスが駄目でも、彩を欠くことはないだろう。
先ごろ県庁花壇を夏から秋に植え替えた。その折花殻を失敬して鉢に挿しておいたら見事に復活した。一般に移入種は逞しい。四季のある日本の環境は等しく生物の種の保存に適しているのかもしれない。
写真左はアロエかあるいはリュウゼツランの一種か。数年前散歩途中、薬草畑で人目を盗んでこっそりポケットに忍ばせた。薬膳料理に欠かせないものらしい。私が豊橋に行っている間、飲まず食わずで耐えていた。からからに乾いて「もう駄目だろう」と思っていたのだが、水をやるとたちまち息を吹き返した。新芽がもう少し伸びたら刺身にして食ってやろうと思っている。
右は南洋椰子の一種だろうか。詳しいことはわからない。やはり北薩のとある神社で立ち枯れている親の根元の、もはや今わの際の子供を切り取ってきて鉢に植えた。
どうも手癖の悪いのが治らない。神社の境内で小便した上に何でもガメてくる。罰当たりも甚だしい。神様が怒らないはずがない。かくて泣かず飛ばずの悲惨な人生となってしまった。



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澪引きてトッピーゆけり秋立つ日

故里を棄てむとすれど故里は棄てがたきかな波止に芝刈る

鹿児島と沖縄の間には数多くの島が点在している。古来南海十二島と言われ種子島家の領有に属したのは、屋久、口永部、種子、馬毛、竹、黒、硫黄と宇治群島草垣群島までであろうか。その南のトカラ列島をさらに南下すると、奄美諸島が琉球弧に連なっている。ちなみに屋久島二町、種子島一市二町、竹・黒・硫黄で一村(三島村)、トカラ10島が一村(十島村)である。奄美諸島がいくつの行政区域に分かれているのか浅学でわからない。とにかく鹿児島県は広島県や長崎県と並んで島の数が多い。しかも広域である。
鹿児島港には離島航路の発着ターミナルがいくつもある。この時期、本港区で仕事をしていると、お盆を故里で過ごそうという帰省客が引っ切り無しにやってくる。老いも若きも連れ立ってやってくる。湾岸道路はさながら田舎銀座の様相である。晴れやかな顔が多いのは、久しぶりに帰る故里への想いが顔をほころばせているのか。方言が飛び交い、何を言っているのかまったくわからない。
これだけ広い海域にそれぞれ孤立して生活する人々の言葉がまちまちに発達するのは至極当然のことなのだが、そしてまた久しぶりに会う人同士、日頃のかしこまった標準語をかなぐり捨て親しみを郷里の言葉で顕わすのもまたまた当然の成り行きだが、盗み聞きするこちらは異郷に迷い込んだような一種不安に似た苛立ちを覚える。
その中で郷里種子島の言葉に出会うとすこしホッとする。種子島の方言はこれまた難物で、鹿児島言葉とも異なり、本来余人はなかなか意味を解さない言葉であるが、近年は昔ながらの純然たる島言葉は使われていないから、「通じない」というほどでもなさそうである。特筆すべきはアクセントで、村ごとに抑揚がちがっている。これは種子島が移住の島であることによるのである。明治中期の甑島からの1万人を筆頭に、沖永良部、桜島、静岡、大分などなど、風害、噴火、飢饉などで難を逃れた人々が集団で移住してそれぞれの村を起こした。
通りすがりの男女の会話を盗み聞きして「あ、これは隣村の人だ」とわかるので懐かしくもあり、一声かけようかなどと思ってしまう。
長女と次女がこの夏、「一度種子島に帰ってみたい」と言っている。「帰ってどうするのだ。泊まるところもないのだよ」と言いながら、私は思わず不覚の涙がこぼれそうになる。家なき子にしたのは私である。

故里の鳥峰山の栴檀に「ぢぃーよばぁーよ」と蝉鳴くらむか
故里の於月山なる杉の木に法師蝉鳴くつくつくぼうし

ポーチュラカ・マリーゴールド・キンギョソウ、へくそかづらに優る花なし

一週間の暮らしのパターンが定まった。五日働いて二日の休日、可もなし不可もなしの判をつくような日々が過ぎてゆく。年々歳々花相似たり年々歳々人老ゆを知らず。
今は、何事もなくつつましく日を送れることこそ至福なのではないかと思うようになっている。最初の頃は疲れきって土日を寝てばかりいたが、このところ「ちょっと出歩いてみようかな」と思うほどの元気とゆとりも出てきた。
土曜日の今朝は早く起きて近くの温泉にいった。ぬるい湯に首まで浸かって「極楽、極楽」と唱えると、羽化登仙の鴉天狗の気分である。
鹿児島は温泉天国で、銭湯はほとんどが天然温泉。三百円そこそこでゆっくり手足を伸ばして湯山気分を味わえる。ちょっと街をはずれると百円、二百円のこじんまりした公営私営の温泉もあるから、着の身着のまま庄助さんになることもある。豊橋の銭湯は六百円以上で、のんびり湯に浸かることもままならなかった。その点だけで言うと鹿児島はまさに極楽である。
日本も豊かになったものだと思う。永い自営の期間はほとんど休みというものがなかった。子供と遊んだ記憶も体育祭や学芸会に行った記憶もあまりない。働いても働いても貧乏から抜け出せなかった。「商才がないのだから仕方がない」そう思って休日返上で働いた。結局残ったのは膨大な借金の山だけだ。
週40時間労働が定着して人は昔ほど働かなくなった。労働時間に関して言えば、私などは往年の半分ほどだろう。それでもさして有り難味を感じないのは、立場の違いか歳をとった所以か……。
人間はよくも悪くも「馴れる動物」である。

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やまとやかん yakandesu@pure.ocn.ne.jp

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