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ありがたやあをむし様の食べ残し

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山川海岸より望む開聞岳


離島航路の船が佐多岬を回ると、左舷に開聞岳が姿を現す。木の葉のように波に揉まれていた船も錦江湾に入るとピタッと揺れが収まる。不安と期待を胸に船出した私たちにとって、開聞岳は新しい世界の始まりであり、希望の象徴であった。佐多岬を境にして世界がくるりと入れ替わる、そんな印象がある。
昔の種子屋久航路は各地の航路を巡り歩いた退役寸前の老朽船、しかも500トン内外の小船が多かった。船倉は一種独特の匂いが充満し、それだけで唾が口に湧きムカついた。時化れば折り重なるように横たわった乗客を縦揺れ横揺れが襲う。ぐ〜んと持ち上げられたかと思うと、際限なく沈み込んでゆく恐怖、加えて船の軋み。転がるまいと手足を踏ん張り、モドスまいと唾を飲み込んで耐えている側で、「オェ〜ゲロゲロ」と吐瀉する音、火のついたような子供の泣き声、まさに阿鼻叫喚の地獄だった。それを思うと故里恋しい気持も萎えた。船に乗るについては相当の決断を要したのである。
たいした距離でもないのに、「海を渡る」ことに恐怖があった。「帰りたい、還れない」のは私だけだったろうか。私は鹿児島市に居住した五、六年の間、帰島したのは数えるぐらいしかない。
特に盆暮れは帰省客で鈴なりとなり、階段やトイレや通路までも人であふれ、吐しゃ物で足の踏み場もないから、一度で懲りた。正月やお盆に帰った記憶がない。
今のプリンセスわかさは1万トン級、所要時間も3時間ぐらいではあるまいか。もう頭を抱えて上鹿するかどうか悩むこともあるまい。加えて水中翼船の就航で一段と速く、快適になっている。これだと日帰りで往復できるから出張や観光には便利である。隔世の感がある。

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